おりおりの 山 第13回
(「隊友」〇四年六月号)転載作者プロフィール
柚木 文夫氏
千葉県隊友会会員
習志野支部長
桧町陸幕
平成2年退官
1958年防衛大学卒
元防大山岳部監督
現自衛隊山岳連盟会長
樹林と草原と岩峰と
奥秩父・乾徳山
六月下旬、奥秩父・乾徳山(二〇三一㍍)に出かけた。
塩山にある武田家の菩提寺・恵林寺の山号が乾徳山。乾徳山は、恵林寺の開祖・夢想国師が修行した山と言われる。
塩山駅からタクシー乗り合わせで九時半、乾徳山登山道入口到着。鳥居をくぐり、昼なお暗い杉林の中の登りが始まる。
銀晶水を過ぎた頃から雑木林に変わり、岩ゴロゴロの急登が続く。 十時二十分錦晶水到着。冷たくて水量豊富な水場で一休み。
この辺から傾斜も緩み、ササとカラマツの気持ち良い草原散歩となる。
咲き乱れるアヤメの紫色とレンゲツツジのピンク色が目に鮮やかである。
国師ヶ原の四差路を過ぎ、草原が終わり、ザラ場を一登りして十一時四十分、主稜線に飛び出した。
ここを扇平という。見晴らしが良く、先客五~六人が座りこんで弁当を広げていた。
後は、コメツガやシラビソの樹林帯の尾根道。岩塊を左に右に縫いながら、次第に高度を稼ぐ。
そしていよいよ岩稜帯が始まる。十五㍍程の鎖のある念仏岩は、足がかりがしっかりしていて難なく乗り越える。
山頂直下の天狗岩は、あたかも本を開いて立てたような岩場で、手がかり足がかりが殆どなく、ひたすら鎖にすがって腕力で登った。 十二時半乾徳山頂。巨岩の重なり合う狭い山頂は、正に天空に突き出た展望台である。
正面に居座る黒金山のかなたに国師ヶ岳、金峰山。東には奥秩父から大菩薩、遠くは奥多摩の峰々。
南には富士山に続いて南アルプスが霞んで見えた。我が物顔に頂上を占領して、眺望を楽しみながら昼食休憩。
帰りは朝と同じ道をたどり、乾徳山登山口帰着が十五時四十分。 バスを待つ間、バス停前の乾徳公園の芝生に座り込んで、例の如くビールパーティーと相成った。