作者プロフィール
柚木 文夫氏
千葉県隊友会会員
習志野支部長
桧町陸幕
平成2年退官
1958年防衛大学卒
元防大山岳部監督
現自衛隊山岳連盟会長
おりおりの 山 第20回
(「隊友」〇四年一月号)
スイセンの里
伊予ヶ岳・富山
千葉県民が県の山を書かんのはけしからんと叱られたので、今回は房総の山のお話。
二月上旬の穏やかに晴れた日、房総・伊予ヶ岳(三三七㍍)と富山(三五〇㍍)に出かけた。伊予ヶ岳は鋭い岩峰の故に、房総のマッターホルンなどと呼ばれる山である。
JR岩井駅前から出る町営バスを平群天神社で降り十時半、天神様の境内から登りが始まる。丸太の階段と手すりがしっかり整備された遊歩道である。十一時アズマ屋のある展望台。ここから鎖やロープにすがる急登になり、十一時十分南峰。十一時二十分北峰。
三~四人立つのがやっとの狭い頂上は眺望絶佳。
典雅な双耳峰富山の向こうに海が広がり、遠く大島、三浦半島の彼方に伊豆、箱根、富士山、丹沢の山々が霞んで見えた。
眺望を楽しんだ後は富山に向かう。途中、谷部落を見下ろす日当たりの良い草原に靴を脱いで座り込み、ゆっくり昼食休憩をとった。
富山へは、谷、真門の部落の中を犬に吠えられながらテクテク歩き十三時半、吉井部落の外れの登山口に出た。
それからほの暗い杉林の中の林道を登り十四時、富山鞍部。先ず向かった一〇分程先の南峰は、頂上に立派な観音堂があるが、木立で展望ゼロ。
次いで先程の鞍部を通り越して北峰に登ると、ここは眺望が素晴らしかった。立派な木組みの展望台もある。十一州一覧台と呼ばれるのもむべなるかなである。
持参のフィルムも撮り尽くし十四時四十五分、帰路に就く。帰りは、里見八犬伝ゆかりの伏姫籠穴などを見物しながら岩井駅まで歩いた。
途中の至るところ、斜面や園地、道端を埋めるスイセンが今が真っ盛りである。町全体が甘いスイセンの香りに包まれている。駅前ではスイセンをかたどったアーチに迎えられた。
富山町はスイセンの町である。
伊予岳の山頂
伊予岳からの富山
富山からの伊予岳
富山からの鋸山