春の奥白根山

去る年、GW直前の四月下旬、日光・奥白根山(二五七八㍍)に登った。

 前夜は日光・湯元温泉泊り。ここの硫黄泉は真から身体が温まる。宿の主人が釣ったという岩魚料理に舌鼓を打った。

 朝七時に宿を出て、スキー場の草地をリフトに沿って登る。リフトの終点付近の遭難碑に一礼して、白根沢の右岸尾根に取り付く。いきなり木登りでもするような急な登りである。所々に張り詰めた氷に滑らないように慎重に足を運ぶ。尾根筋までの中間八合目付近で雪の斜面となり、アイゼンを着ける。九時半ごろ、ようやく外山の西鞍部に飛び出した。

 後は輝くばかりの明るい尾根筋で、雪も固く締まり快適な散歩となる。十時、天狗平到着。雪の消えたコケのしとねに足を投げ出してゆっくり休憩した。眠気を誘われるような暖かい日差しである。

 気を取り直して前白根に登る。青く凍結した五色沼の上にそびえる奥白根のたたずまいが素晴らしい。前白根を過ぎ、白根隠山への尾根を外れて右に下り、避難小屋に出る。

 正面に奥白根本峰に続く雪の大斜面が立ちはだかる。好天続きで雪も締まり雪崩の心配も無しと見て直登することにした。

 十一時二十分、登攀開始。大斜面の右縁付近を、膝までの雪をラッセルしながら、ひたすら直登する。比高差約二〇〇㍍。

 気持良い汗をかいて十二時四十五分、奥白根山頂に到着した。表日光の連山、会津駒ヶ岳、燧岳、至佛山、武尊山、皇海山、赤城山などの展望と、眼下に広がる五色沼、弥陀ヶ池、菅沼、中禅寺湖などの眺望が欲しいままである。疲れを忘れてフィルム一本を撮りまくった。

 下山は中ツ曽根を下った。午後五時、漸く宿帰着。疲れた身体に熱い温泉がしびれた。
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おりおりの  第22回


(「隊友」〇一年四月号)

作者プロフィール

 柚木 文夫氏

千葉県隊友会会員
習志野支部長
桧町陸幕
平成2年退官
1958年防衛大学卒
元防大山岳部監督
現自衛隊山岳連盟会長

夏の五色沼

白根山頂から表日光連山

雪の五色沼