荒船山の散歩

 10月末、荒船山(1423㍍)に出かけた。長野・群馬県境である。

 上信越道の下仁田付近から左方に、稜線上にくっきり軍艦型のシルエットが見えるのが荒船山である。左端のせりあがった船首部が最高点の経塚山、右端の直角に切れ落ちた船尾部が艫岩である。

 午前10時、内山峠の駐車場に車を置いた。登山路は正面の岩壁を右に巻いて登る。ヤセ尾根の稜線路は上州側が切れ落ちており、いくつかのピークを信州側を巻きながら登る。覆いかぶさるような岩壁を右に回り込むと、一杯水と呼ばれる水場に出た。岩の間から流れ出る冷たい水は、正に甘露甘露。

 一杯水から先はしばらく岩場の急登が続き、やがて船の甲板にあたる稜線まで登り上がると一変して緩やかな雑木林の散歩道となった。

 11時半、艫岩展望台到着。立派なレストハウスがあり、足下からストンと切れ落ちた岩壁の縁に立つと北側の眺望が素晴らしい。眼下の神津牧場の緑の広がりの彼方に、浅間山の噴煙、妙義山の岩峰群が見事である。はるかに上越国境の山並みも遠望出来、眺望を楽しみながらの賑やかな昼食休憩が始まった。

12時15分、重い腰を上げて経塚山に向かう。長さ約2㌔㍍にわたって続く雑木林の広い稜線は、さしずめ豪華客船上のくつろいだ甲板散歩といったところ。最後は一登りして13時、荒船山最高点の経塚山頂上に着いた。弘法大師が経典を埋めて塚を築いたという伝説があるが、石祠がひっそりとたたずむだけの静かな山頂である。木立のため展望も殆どない。

 帰りは、同じ道をたどって内山峠到着が午後3時。帰路に立ち寄った神津牧場の絞りたての牛乳が絶品だった。

 

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おりおりの  第26回

                

作者プロフィール

 柚木 文夫氏

千葉県隊友会会員
習志野支部長
桧町陸幕
平成2年退官
1958年防衛大学卒
元防大山岳部監督
現自衛隊山岳連盟会長

 尾根上漫歩
 
立岩からの経塚山
 
 トモ岩から望む浅間山・神津牧場

トモ(艫)岩