女 岩

深田久弥終焉の山

         茅 ヶ 岳

 暮れも押しつまった12月下旬、甲州・茅ヶ岳(1703㍍)に出かけた。甲府盆地の北西端にそびえるこの山はその雄大な山容と裾野の広がりが八ヶ岳に似ていることから「ニセ八ツ」というあまり有難くないあだ名がついている。
 それよりも昨今は、「日本百名山」の著者・深田久弥氏終焉の山としてすっかり有名になってしまった。

 韮崎からのバスを穂坂で降り、茅ヶ岳登山口まで1時間、車道をテクテク歩く。丁度程良いウォーミングアップだった。

 10時半登山口到着。すっかり葉が落ちて明るい雑木林の中ののんびりした登りが始まる。刷毛ではいた程度に粉雪の残る道は、カンカラカンに凍てついており歩き易い。やがて広やかな谷の両岸が次第に狭まり11時50分、女岩に突き当たった。高さ10㍍余りの大きな岩盤の基部が岩穴になっており、見事なツララが垂れ下がっていた。この地の寒気の厳しさがしのばれる。

 女岩の右を巻いて登ると、後は雑木林の中の広々とした斜面のジグザグ登りが延々と続く。12時半、やっと稜線のコルに飛び出しホッとした。
 コルから左へ尾根道を少し登ると小さな台地があり、深田久弥終焉の地の木柱が立てられている。

 その先は、稜線伝いにちょっとした岩場をよじ登ったりして高度を稼ぎ午後1時、小広い茅ヶ岳頂上に到着した。
 風もなく良く晴れ、眺望は最高である。白凱々の八ヶ岳の峰々、甲斐駒、鳳凰三山、南アルプスの山々、振り返ると金峰山や小川山など。
 北アルプスも見えるはずだが、モヤがかかり定かでないのが残念である。
 眺望を楽しみながらゆっくり昼食休憩をとった。

 帰りも同じコースを下った。登山口帰着は午後3時。登山口のすぐ手前に深田記念公園がある。
 説明板に故深田久弥氏享年68歳、死因は脳溢血とあるのを読み、山での酒は程々にしような、と互いに戒め合ったことだった。

会員のページへ


おりおりの  第28回

                

作者プロフィール

 柚木 文夫氏

千葉県隊友会会員
習志野支部長
桧町陸幕
平成2年退官
1958年防衛大学卒
元防大山岳部監督
現自衛隊山岳連盟会長

夕日の茅ヶ岳 
 
 茅ヶ岳から見る鳳凰三山
 
石門付近からの茅ヶ岳