火口を覗く
ブルーアイス
 

厳冬の富士山

 

 若い頃の話で恐縮です。富士学校勤務で須走に住み、1~2月になると、勤務がない限り、週末ごとに頻繁に富士山に通った時期があった。その頃の日記から。

 土曜の昼食を終えて、いつものザックを担いで出発。須走登山道はせいぜい5~10㌢の積雪。夏は登山バスの行き交う道に今は人影もない。
 静寂の中を、一人で歩く哲学の道である。午後7時、二合五勺のいつもの古御岳神社廃屋に着く。熱々の夕食に舌鼓を打ち、明日の好天を念じつつシュラフに潜り込む。

 3時に起床して、もちラーメンの朝食。真っ暗闇の中をヘッドランプで出発。右上の北極星を頼りに進路を取る。5時ごろ、辺りが薄明かるくなり三合目の鳥居を確認してホッとした。

 少し足元が明るくなると、岩と雪の歩きにくい尾根筋を敬遠して、左の谷筋をアイゼンに物を言わせて直登する。それでも時々、雪質が変わりウインドクラストになると雪崩が恐く、雪面を崩さないように尾根筋近くへ慎重に逃げる。

 七合目から上の斜面の直登は爽快そのものである。アイゼンの爪はせいぜい1~2㍉食い込む程度の完全なブルーアイス。斜面が急になって足場をカッティングすると三日月型の切り口が青色に映える。

 八合目付近、吉田口から顔を出した登山者3人がゆっくり稜線を登って行くのが見えた。私も右寄りにコースを取り、九合目付近で尾根筋にたどり着いた。吉田大沢から吹き上げる風が強い。時々、ピッケルにすがって確保姿勢を取らされる。

 10時、やっと頂上の狛犬さんに迎えられた。見渡す限り眺望は素晴らしいが、とにかく寒い。長居は無用。神社の風陰で食事を済まして早々に帰路に就く。

 アイゼンを効かして一直線に谷筋を下降する。五合目付近から吹雪になり、古御岳神社に帰り着いたのが午後3時だった。

会員のページへ


おりおりの  第29回

                

作者プロフィール

 柚木 文夫氏

千葉県隊友会会員
習志野支部長
桧町陸幕
平成2年退官
1958年防衛大学卒
元防大山岳部監督
現自衛隊山岳連盟会長

冬富士の威容
 
朝焼けと山中湖