氷と岩の殿堂

 八ヶ岳

 

 冬の八ヶ岳は明るい。北アルプスに豪雪が吹き荒れる季節、ここ八ヶ岳は、風こそ強いが快晴の日が多い。青空に映える氷と岩の殿堂・八ヶ岳を愛するファンは多い。

 
 一月半ば、アイスクライミングの合宿をやっている若い連中の激励に出かけた。激励といっても、実は夜のテントの、酒の仲間入りをするのが本音である。


 テント場は行者小屋。快晴の朝、ジョウゴ沢などのアイスクライミングに出かける連中を送り出した後、高年者組は八ヶ岳連峰の主峰・赤岳(二八九九㍍)を目指すことにした。文三郎道を登り、地蔵尾根を下りる計画である。


 九時出発。文三郎道は、行者小屋から赤岳頂上に直路突き上げる標高差約五五〇㍍のルート。ダケカンバ帯が終わる付近から岩と氷のミックスした急傾斜となり、アイゼンをきしませながらの登行となる。風が強い。沢を隔てた赤岳南峰リッジの岩登り仲間の動作が手にとるように見え、声をかけあう。


 十一時、赤岳南峰到着。三角点標と祠がある。南アルプスの山々がよく見えるが強風と寒さで展望を楽しむどころではない。風に飛ばされないようにバランスに気をつけながら、主稜線の狭いリッジを伝って北峰に進む。ここにある赤岳頂上小屋の風陰に入ってやっと小休憩。テルモスの熱い紅茶に人心地がついた。


 北峰から三〇分の尾根伝いで地蔵ノ頭に達し、ここから主稜線に別れて地蔵尾根を下る。しばらくは岩と氷のミックスした急傾斜で、アイゼンを効かせながら一歩一歩慎重に下りる。


 そして、やっと樹林帯に達し傾斜も緩くなった途端に、腰までの深雪に出くわしラッセルに大汗をかいた。テント帰着は午後一時半だった。

おりおりの

(「隊友」〇二年一月号)転載

作者プロフィール

 柚木 文夫氏

千葉県隊友会会員
習志野支部長
桧町陸幕
平成2年退官
1958年防衛大学卒
元防大山岳部監督
現自衛隊山岳連盟会長

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