観光気分の山域散歩

 房総・鋸山

 オトソ気分も脱けきらぬ一月中旬、誘われて房総・鋸山(三三〇㍍)に出かけた。観光客向けのロープウェイがあるが、一応マジメに登山道を上り下りする企画に乗った。

 JR浜金谷の駅から町中を歩いて鋸山登山口到着が八時五十分。準備体操をしている団体さんの間をすり抜けて、一足早く石段登りに挑戦する。二〇分程石段を登った所が観月台という公園風の小ピーク。伊豆大島から三浦半島、遠くは伊豆の山々や富士山が霞んで見える。前方を眺めると、鋸山の稜線が正に鋸刃のようにオドロオドロしく迫って見えた。

 少し下ってから滑りやすいナメ岩の道を登り、すっぱり切れ落ちた石切場を見物し、両側の切り立った石段を手すりにすがりながら登った所が日本寺北入口、十時。入山料六〇〇円。入ってすぐ左に、見上げるような壁に刻まれた百尺観音。

 ここから御影石造りの石段と石畳の道になる。行き交う客の何と多いこと。ロープウェイで上がって来た人たちだろう、家族連れが多い。十時十五分、瑠璃光展望台。先程の観月台にも増して素晴らしい眺望である。展望所が幾つも設けられ、なかでも絶壁の上の「地獄のぞき」などはなかなか面白い。

 次いで、二万五千の地図を頼りに本物の鋸山最高点を目指す。展望台からやや下った所から、立入禁止のロープをくぐってそれらしい踏み跡をたどる。十時半、鋸山山頂三角点標。数組の先客が弁当を拡げており、聞けば寺域に入らない別の場所からちゃんとした登頂ルートがあるとのこと。ともあれ我々もここで昼食にした。

 十一時、元のルートを戻り、千五百羅漢道を下る。西国観音、百躰観音、あせかき不動、日牌堂、維摩窟、弘法大師護摩窟などを経、東洋一とかの大仏様を拝んだ後、仁王門を抜けて寺域を後にした。JR保田駅到着が十二時半。電車を待つ間、駅前寿司屋の熱カンで、すっかり出来上がった。

おりおりの

(「隊友」一〇年一月号)転載

作者プロフィール

 柚木 文夫氏

千葉県隊友会会員
習志野支部長
桧町陸幕
平成2年退官
1958年防衛大学卒
元防大山岳部監督
現自衛隊山岳連盟会長

TOPへ