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第5次ソマリア沖・アデン湾海賊対処行動を終えて
               帰国した派遣隊員とのインタビューから
(社)千葉県隊友会館山支部

第5次派遣水上部隊・ヘリコプター隊帰投
 10月15日(金)、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動に従事していた第5次派遣海賊対処行動水上部隊・護衛艦「むらさめ」搭載のSHー60Kへリコプター2機、搭乗員8名が、第21航空群司令(山本敏弘海将補)はじめ隊員および家族、館山市自衛隊協力会会長の館山市長ほか市議会議員、協力団体、自衛隊OBら大勢が出迎える中、150日間の過酷な任務を終えて無事館山航空基地に帰投した。
 派遣隊員の表情には、厳しい任務を果たしたという安堵感とともに達成感、充実感がみなぎっていた。     
 帰隊早々、部隊指揮官への任務完了報告等、あわただしいスケジュールの合間に、派遣隊員にインタビューを申入れ、むらさめ派遣隊長の中原英資1海尉、同次席機長の稲生誠1海尉に150日間にわたる任務行動の様子や派遣隊員たちの胸中、心情の一端を聞くことができた。
< 群司令から派遣隊員に訓示> <150日ぶりの家族との再会>
ソマリア沖・アデン湾派遣海賊対処行動・・水上部隊の役割
  ソマリア沖・アデン湾は、スエズ運河・紅海を経由し、
 地中海とインド洋を往来する、国際海運上重要な航路
 であり、我が国にとっても 年間、約2,000隻の日本
 関係の商船が行き交う、国民の暮らしを支える極めて
 重要な海上交通路である。   

  わが国は、他国海軍、国際海事機関(IMO)等と協
 調、連携をとりつつ、昨年3月、海上警備行動に基づく
 第1次水上部隊の派遣に始まり、現在、昨年6月に成
 立した海賊対処法により、第6次水上部隊が派遣され、
 左図の航路(A点〜B点間) を通航する船舶の護衛の
 任務に就いている。   

  本来、安全無害通航が保障されるべき天下の公道
 が、現実は海賊が出没する危険海域に化している。
  護衛艦とともに商船の護衛に当たるヘリコプターの
 搭乗員にとっては、瞬時の油断、些細な見逃しも許さ
 れない、過酷な緊張の連続と言ってよい。

海賊対処行動の点描と派遣隊員の胸中・心情
 一見、のどかな航行光景であるが、そこには変幻自在に出没する海賊の危険が常に潜んでいる。
 海域こそ異なれ10月初めに日本国籍の商船が乗っ取られ、拉致された事件はまだ記憶に新しい。
 また、ソマリア周辺海域における海賊の脅威が、日本近海のマグロ漁にも影響を及ぼし始めているという。 
 インド洋方面の補給支援活動にも参加したことのある派遣隊長は、「監視警戒という行為には変わりないが、現実に出現する可能性がある海賊と それらへの対処いう事態を想定した場合、緊張は比較にならない。
任務が終ると疲労がどっと出てくる」と胸中を吐露している。
  
 派遣行動は、訓練でもデモンストレーションでもない。現実に起こりうる危険事象に対処を求められる“実動”なのである。 
 順法精神や道義心の欠如した、統制のとれない、飛び道具(ロケット砲など)の使用も躊躇しない相手だけに、行動に際しては “ためらいとかやり直し”は許されない。
  
 <護衛活動において、目標(不審船等)に最も接近する可能性、機会が多いのはヘリコプターと考えるが>
 「もし商船に接近しようとする小型船舶や挙動不審な目標を認め、相手が警告にも応じない場合は、どのような対処を?」という多少意地の悪い問いに対して、派遣隊長から(毅然とした態度で)「相手の挙動、動向等から、相手から攻撃を受ける可能性や当方への影響等を見極めた上で、すかさず警告行動に移り、相手の意図を挫折させることを最優先する」という自信に満ちた答えが返ってきた。みじんの逡巡、まよいも感じられなかった。
 今までの事例からも、確かに護衛艦艇や航空機が近づくと、相手は逃げる(接近を断念)という。
 搭乗員の気迫が、そのまま航空機の動きになって表れるのである。
 このような決意、言動は、任務に臨むに際しての一時的な特訓で身に付くものではない。
 やはり(国内における)平素のたゆまぬ訓練、研鑽努力の賜物と言ってよい。

 今回の派遣行動では、幸い実際の危険場面は生起しなかったという。 といって、海賊が減少したわけでも事態が沈静化したわけでもない。国際機関、各国海軍等の協調・連携による広域的な情報提供や護衛艦艇・航空機による警戒・護衛活動によって、この海域の安全が保たれているのである。  
  

派遣隊員のやすらぎと心の支え
  第4次隊が護衛した船団の中に豪華客船「飛鳥U」の姿があった。護衛の解散地点で デッキにあふれた乗客たちが「ありがとう」の垂れ幕を掲げて護衛
艦やヘリコプターに盛んに手を振る光景が見られ、乗客たちの熱い想いが搭乗員にも伝わってきたという。  

 船客のひとり筑波大名誉教授の村上和雄氏は、そのときの様子を次のように 伝えている。
 「3日間の長い緊張と恐怖から開放された乗客たちの安堵と感謝の気持ちが 熱い想いとなってこみ上げてきた」 と。
 そして、「日本では海賊の出現などという事態は到底実感できないが、国際情勢は想像以上に厳しく、 自衛隊の存在と役割を改めて考える貴重な機会であった」と述懐している。(6.14付産経新聞)

 日本から 9,000km離れたアラビアの地で、毎日毎日、黙々と任務に就く隊員にとって、外部からの励ましの言葉や感謝の気持ちは、かけがえのない“やすらぎ”となるものである。  
 
 今回の5次隊も寄港地ジブチでの補給・休養の機会に、激励に訪れた日本船主協会会長から、船主を代表
して誠意のこもった感謝・激励の言葉と垂れ幕を贈られ、感激したという。   

 派遣隊員たちは、感謝されることや報道で取上げられることを期待して任務に就いているのではない。
 国の方針に基づいて海外に派遣され、
任務に邁進する隊員たちにとって、国民の理解と暖かい声援こそが、なにものにも代えがたい心の支え、やすらぎであり、それが任務に対する意欲、モチベーションの向上につながるのである。

  <記事>派遣先の画像は、防衛省統合幕僚監部の公開情報資料(4次・5次隊)から転載したものです。